薄味への不満は伝え方しだい。介護現場で見て、伝えたい食卓の話

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コラム

デイサービスのお昼どき。おかずをひと口食べたAさんが、いつものようにつぶやきます。

「味がないねぇ、ほんと」

Aさんは90代の女性で、お医者さんから減塩をすすめられている方です。

私が関わるようになって、もう6年ほどになります。

減塩食が物足りないというお気持ちは、とてもよくわかります。

長いあいだ濃い味に慣れていますし、歳を重ねると味も感じづらくなるからです。

ただ、Aさんが同じ言葉をくり返していたのは、デイサービスだけではありませんでした。

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ご自宅で起きていたこと

Aさんは、息子さんとお嫁さんと同居されていました。

毎日の食事を作っていたのは、お嫁さんです。

そのお嫁さんの料理に対して、Aさんはいつも文句を言っていたそうです。

「味がしない」 「こんなの食べられない」

朝・昼・晩と、1日3食。

献立を考えて、買い物に行って、火を使って、後片づけをする。

減塩を意識すればなおさら、味付けには気をつかいます。

それだけのことをして、返ってくるのが「味がしない」の一言だとしたら。

お嫁さんが、作らなくなった日

そしてある時期から、お嫁さんはAさんの食事を作らなくなりました。

作ったとしても、朝の食パンとインスタントのおみそ汁くらい。

あとはAさんが自分で、近所のお店までお惣菜を買いに行くようになりました。

その頃のAさんは、まだお元気でした。

自分の足で買い物に行けましたし、好きな味のものを選んで食べられます。

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それから6年が経ちました

Aさんは100歳を過ぎました。

そして今、少しずつ、お惣菜を買いに行くことが難しくなってきています。

杖だけでは、外出するのが難しくなっています。

こういうとき、「じゃあ、これからは私がちゃんと面倒みるよ」と、

きれいごとで元に戻せる話ではないのだと、そばで見ていて痛感します。

一度、自分から突き放してしまった言葉の数々。

それは、時間が経てば簡単に消えるというものではありません。

Aさんは、近いうちに自宅から出て施設に入ることが決まりました。

不満があっても、伝え方には気をつけたい

不満を持ってはいけない、我慢しなさい、ということではありません。

「味がしない」と感じたら、それは伝えていいことです。

大切なのは、その伝え方です。

たとえば、同じ気持ちでもこう言えたら、受け取る側の気持ちはずいぶん変わります。

  • 「味がない」→「作ってくれてありがとう。ちょっとだけお醤油をかけてもいいかな」
  • 「こんなの食べられない」→「今日はこれが食べやすかったよ。この味だと助かるな」

責める言葉ではなく、お願いの言葉にする。

ただそれだけのことなのですが、毎日積み重なると、大きな差になっていきます。

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「ありがとう」は大事

作ってくれたおかずが、たとえ思ったより薄味だったとしても。

まず「ありがとう」を伝える。

これが本当に大切だと、私は思っています。

感謝の言葉があるだけで、作る人はまた明日も台所に立とうと思えます。

逆に、感謝のない食卓は、少しずつ人を遠ざけていきます。

そして、作っている側のあなたへ

ここまで読んで、

「私はずっと言われている側だ」と感じた方もいらっしゃると思います。

まず、ご自分を責めないでください

毎日作っているのに、返ってくるのは不満の言葉ばかり。

だんだん作るのが嫌になってくる。台所に立つのが憂うつになる。

その気持ちは、当たり前のものです。

おかしなことでも、冷たいことでもありません。

終わりの見えないことを毎日くり返しながら、評価されるどころか否定される。

それで心がすり減らないほうが不思議です。

「私の作り方が悪いのかな」と、ご自分を責めないでくださいね。

あなたはもう、じゅうぶんすぎるほどやっています。

食べる量が少ないなら、少し濃いめでも大丈夫なことがあります

もうひとつ、肩の力を抜いていただきたいことがあります。

塩分は「味の濃さ」ではなく、食べた総量で決まります。

たくさん召し上がる方でないのなら、味付けが少し濃いめでも、

1日の塩分量はそれほど増えないことが多いのです。

むしろ、薄味にしすぎて残されてしまうほうが問題になる場合もあります。

おかずを残せば、塩分と一緒にたんぱく質もエネルギーも入ってこないからです。

高齢の方にとっては、そちらのほうが体にこたえることも少なくありません。

もちろん、腎臓の状態や心臓の病気によっては、しっかりした制限が必要な方もいらっしゃいます。

「これくらいなら大丈夫でしょうか」と、

一度かかりつけの先生や管理栄養士さんに確認してみてください。

「思っていたより神経質にならなくてよかった」とわかるだけでも、

ずいぶん気持ちが軽くなるはずです。

つらいときは、遠慮なくサービスを使ってください

そして、いちばんお伝えしたいのはここです。

全部をご自分で背負わないでください。

  • 宅配のお弁当:減塩食やたんぱく質を調整した食事に対応しているところもあります。
  • デイケアやデイサービス:昼食が出ますし、運動もできます
  • ショートステイ:数日間まとまってお休みできます。「申しわけない」と思う必要はまったくありません
  • ケアマネジャーさんへの相談:何を使えるかわからないときは、まずここからで大丈夫です

こうしたサービスは、手を抜くためのものではありません。

介護を長く続けていくための、大切な仕組みです。

あなたが穏やかでいられることは、生活していく中で一番大切なことです。

どうか、頼れるものには頼ってくださいね。

おわりに

食卓は、健康を守る場所であると同時に、家族の関係そのものです。

高齢になれば、いつか必ず、誰かの手を借りる日がやってきます。

そのときに手を差し伸べてもらえるかどうかは、

それまでに交わしてきた言葉が決めているのかもしれません。

もし今、ご家族の減塩食に不満を感じている方がいらっしゃったら。

もし今、毎日作っているのに文句ばかり言われて疲れている方がいらっしゃったら。

伝え方には気を付けて、口に出してみることも必要です。

そして「ありがとう」をひと言。

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yuu

9歳の息子、2歳の娘、夫と4人暮らし。
介護福祉士・管理栄養士資格を持ち、介護施設で勤務中。

自身に胃の疾患があり、胃がん予防のため減塩を意識した食生活をしています。減塩生活を楽しむための工夫や、知って役立つことなどを発信しています。減塩生活を続けている方のモチベーションアップに貢献できたらと思っています。

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